「今日は何の用だ」
「転生者の信仰心を試したいから、検証に協力してもらえる?」
「はぁ?」
街のはずれに建つ転生塔——その隣にある管理人小屋で俺は女神リュミンと向かい合っていた。リュミンはノースリーブの白ブラウスに青いジーンズという、いつもの軽装だ。
「……よくわからないけど、なんで俺に頼むんだ」
「それはもちろん、君が世界で一番暇だから」
諭すような口調で、リュミンは語りかけてくる。
「君の職業は?」
「転生塔の管理人」
「仕事の内容は?」
「塔の中の掃除と消耗品の補充」
「頻度は?」
「三日に一回。だいたい四十分ぐらいで終わる」
「ほら暇だ。時間が余ってる人に助けを求めるのは、当然だと思わない?」
「思わない。悪いけど、他を当たってくれ。前世でたっぷり働いた分、俺はのんびり暮らしたいんだ」
「永遠の命があるのに?」
「ああ。永遠にだらだらと過ごしていたい。心はいつでも休日」
「なら、一日ぐらい付き合ってくれてもいいよね?」
ったく、こっちが折れるまで粘るつもりだな。話を聞くしかなさそうだ。
俺は一人掛けのレザーソファに座り、テーブル越しに改めてリュミンの姿を見た。
極端に整った顔立ち、極端に整った体型。外見を自由に変えられるリュミンが、その力を乱用して作った人間態だ。美形なのは確かだが、個々のパーツも全体のバランスも完璧すぎて、違和感がすさまじい。正直、不気味ですらある。
おまけに、必要最小限しか体を動かさないせいで、人間らしさは皆無。今も腕を組んで棒立ちのまま、俺にじっと視線を注いでいる。
「信仰心を試すって、具体的にはどうやるんだ?」
俺が尋ねると、リュミンはようやく説明を始めた。
女神曰く——先日別の世界で、とある宗教の女性信者が一人亡くなった。彼女はとても信心深く、死の直前まで熱心に布教活動を続けていたそうだ。戦地に赴いて教えを説いたり、異教徒を数週間追い回して改宗させてみたり。良くも悪くも、意志の強い人だったらしい。
だが、その頑固さが仇となった。ある時、教団の権力者が教義に反しているのを知った彼女は、それを公然と批判。権力者の怒りを買い、反逆の罪で処刑された。
「いわゆる殉教者ってやつか。で、今はどこにいるんだ?」
「彼女の魂は私が保管してる。三日後の夕刻に転生させるつもり」
おもむろにリュミンは窓の外に顔を向けた。青く晴れた空の下、鉄骨の構造物にゴテゴテした装飾がついた転生塔がそびえ立っている。
この世界に送られてきた転生者の魂は、塔の中で肉体の再構成を受ける。ただし服は再現されないし、事前説明もない。転生者は、全裸でいきなり未知の世界に放り込まれるわけだ。
そんな哀れな客人のために、仮の衣服と、街でやるべき手続きをまとめたマニュアルと、腹ごしらえ用の軽食と水を用意するのが俺の仕事だ。
「転生後のことは普段なら君に任せるけど、今回は特別。私も転生者を迎えに行くよ。ただし」
少し間を置いて、リュミンは宣言した。
「私は人間のふりをするから、そのつもりでよろしく」
意味がわからず、しばらく考えてみるが、やっぱり意味がわからない。
「えーと……なんで?」
「信仰心を試すため。ルールは簡単。神様が人間のふりをして、人間が神様のふりをする。転生者は神を騙る偽物に惑わされず、本物の神様を見極めないといけない。本当に信仰心があれば、余裕で見抜けるはずだからね」
なるほど。特に深い意味のない、ただの気まぐれな思いつきだってことはよぉーく理解できた。
「なかなかいい案でしょ? 昨夜、ワインをいっぱい飲んだあとに浮かんだアイデアなんだけど」
「つまり、酔っ払いの妄想に付き合えと?」
俺は大きくため息をつき、テーブルに置いてある手帳を開いた。
「転生は三日後だったな」
ページをめくり、予定を確かめる。
「三日後、三日後…………ん、その日は先約があるな」
「へえ、珍しいね。どんな用事?」
「蒸気船で開かれるパーティーに行くんだ。主催者は発明家の団体で、新作のタイプライターと自転車をそこで発表するらしい。出かけるのは早朝、帰ってくるのは真夜中だ。残念だけど、俺は手伝えそうにないな」
「嘘はよくないよ。君の予定は七日先まで空いてるはずだし、開催時間が長すぎる変なパーティーは、そもそも存在しないよね? 神様を騙そうとしても無駄だよ」
チッ、全知の能力で調べやがったな。俺はほぼ真っ白な手帳をテーブルの隅に放り投げた。
「で、俺にどうしろと? まさか『神様の演技をやれ』とか言うんじゃないだろうな」
「君に神様役はちょっと荷が重いよ。安心して。もう適任者は見つけてある」
その時、小屋の扉が開いて、場違いなほど明るい声が響き渡った。
「おはよー! 今日も一日、神様気分でがんばろー!」
どうやら、適任者が到着したようだ。